【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~
 沈黙に耐え兼ねて零した言葉を、コーエンは優しく否定する。
 真摯な眼差し。心が騒いで堪らなくなる。


「俺はただ――――クララのことを物凄く大事に想ってる」


 胸の奥がツンと痛い。喉が瞳の奥が、熱くて堪らない。


「多分俺はクララが思うよりずっと……クララ以上にクララのことを大事に想ってるんだ。だからそういうことは――――ちゃんとクララを妻にしてからにするって、心に決めてた」

「…………え?」


 コーエンの言葉の意味が呑み込めないまま、クララは目を見開く。


(今、コーエンはなんて)


 クララの手のひらがそっと握られる。見ればコーエンはクララの前に跪き、熱っぽくクララを見つめていた。


「クララ――――俺と結婚して?絶対に幸せにする。毎日クララを笑顔にするって約束するから」


 この感情を何と呼ぼう。
 嬉しくて、嬉しくて堪らないのに。それ以上に悲しい。
 涙がボロボロと溢れてきて、止められない。


「クララじゃないとダメだから。ずっと俺の側にいてほしい」


 あぁ、なんて。
 なんて幸せで、なんて残酷な――――。


「ごめん、コーエン」


 クララはコーエンの手を引き立ち上がらせる。拭っても拭っても溢れかえる涙のせいだろうか。コーエンの表情が歪んで見える。


「わたし、コーエンとは結婚できない」


 その瞬間、何かが音を立てて崩れ落ちた気がした。


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