【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~

13.ユラユラ揺れ動く

(やばい……忙しすぎて目が回りそう)


 クララは城内を走り回りながら、額の汗を拭った。

 目まぐるしく日々は過ぎ、今日はもう使節を迎えての宴の当日だ。

 事前にしっかり打ち合わせをしていたとはいえ、イレギュラーな出来事はどうしても起こる。あちこち伝令に走り回る必要があるため、クララは朝から休む暇もなかった。


(まぁ、おかげで無駄なこと考えなくて済むんだけど)


 ヨハネス率いる食事の儀礼担当班に書類を引き渡しながら、クララは自虐的に笑った。

 コーエンと一緒に王都に出掛けた日以降も、クララとコーエンの関係は何も変わっていない。

 執務室で会えば普通に会話を交わすし、時に思わせぶりな言葉を掛けられる。ただ、それだけ。
 イヤリングを贈られた意味も、口付けの意味も、クララから何かを問いかけることも無い。


(だって、聞かなくたって分かるもの)


 聞けばコーエンは、きっと好きだとは言わない。そのかわり、そこに特別な感情があると匂わせるかもしれない。その方がクララを夢中にさせられる。舞い上がって真実を見せないようにできるから。

 けれど、上辺だけの言葉も見せかけの感情も、クララは求めていなかった。

 優しくされて、触れられて、その場では嬉しく思ったとしても、後から冷静になって自分を宥めなければならない。そこに特別な何かを期待してはいけない。そうでないと、全てが終わった時に、今より激しく傷つくのはクララだ。

 だからあの夜は、何でもない振りをして、イヤリングの礼だけを言って別れた。

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