【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~
(なっ……なんで知ってるの!)

 思わずそう叫びそうになって、クララは必死に言葉を飲み込む。

 実際に身に着けてはいないものの、クララはコーエンから貰ったイヤリングを持ち歩いていた。

 部屋に置いてくるのも忍びなかったし、なにより今日は宴の場。コーエンの立てた方策により、騎士たちや儀礼官たちは皆、コンセプトを同にした衣装を身に着け、着飾っている。班や役職ごとに衣装を分けたため、クララが今身に着けているドレスは、イゾーレやレイチェルと揃いのものだ。

 けれど、ドレスを揃えるだけでは味気ない。ジュエリーや髪飾りの類は自由に身に着けてよいことになっていた。

 普段はそういったものを身に着けないクララも、さすがにいつものままでは場にそぐわない。そういうわけで、今日はネックレスや髪飾りを身に着けているのだが、イヤリングだけはどうしても着けることが出来ずにいたのだ。


「……うーーん、やっぱり耳元が寂しい?着けた方が良いかしら?」


 あくまでオシャレの一環、バランスを考えて身に着けていない。そう聞こえるよう、クララは何気ない風を装ってイヤリングを取り出す。


「寂しいとか寂しくないとかはどうでも良い」


 コーエンはイヤリングを半ば奪い取るようにすると、再びクララの耳たぶに触れた。


「ただ、俺が着けててほしい。それだけだ」


 あの日と同じように、イヤリングの金具とコーエンの指先が、クララの心を乱していく。コーエンの青い瞳の中に、恋慕の情が、独占欲が見えるような気がして、クララはそっと目を逸らす。

 口付けの感触が、あの日感じた想いが鮮明に甦り、頬が、耳が、唇が熱い。

 チラリとコーエンを見ると、二人の視線が一瞬だけ交わる。それだけで、まるで今、新たに口付けをされたかのような錯覚がクララを襲った。


(もう揺れない……揺れてたまるか)


 クララは、心のなかで必死にそう呟く。

 けれど、コーエンが着け終えたイヤリングは、まるでクララの心を表すように、ユラユラと激しく揺れ動いていた。
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