【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~
「それよりあなた、折角の宴の席なのに止めてくれる?その辛気臭い表情。着こなしも地味だし、こっちまで気分が下がってしまうわ」


 レイチェルはそう言って、クララの反対側に列しているイゾーレへと矛先を変えた。

 嫌味は理解できても、己の行動を否定することも、応酬することもプライドが許さないらしい。代わりにイゾーレを標的にするあたりが子どもっぽい。


(わたしもだけど、この人ってつくづく良い性格してるわね)


 心の中でため息を吐きながら、クララは唇を尖らせた。


「私は普段と変わりません。これ以上テンションを上げろと言われても、土台無理なお話です」


 氷の如き冷たさで、イゾーレは淡々と答える。クララは『さすが』と拍手を贈りたくなった。


「それに、他人の様子に引き摺られて、己のテンションも調節できないようでは、王太子妃を務めることなどできないのではございませんか?」

「んなっ……!」


 何とも強烈な言葉のボディーブローが決まった。

 周囲にブリザードが吹きすさぶようなイゾーレに対し、レイチェルは烈火のごとく頬を紅く染め、怒りを露にしている。ダメだと分かっているのに、クララは思わず声を上げて笑ってしまう。

 すぐにレイチェルは鋭くクララを睨みつけたが、寸でのところで己を律したらしい。ふいと顔を背けながら、ふらりと立ち上がった。


(あら、残念。この場にとってもそぐわない罵倒が聞けると思ったのに)


 そんなことを考えるあたり、クララは結構図太い性格をしている。案外王宮でもうまくやっていけるタイプなのかもしれない等と思った。


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