【コミカライズ決定】王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~
(来ちゃった)


 クララは今回の宴のために臨時で設置された、フリードの執務室の前にいた。コーエンとフリードの二人はまだ宴の会場だろうか。部屋の中はシーンと静まり返っている。ノックをしようか逡巡しながら、クララは頬を紅く染めた。


(あんなに会いたいって思ってたのになぁ)


 いざとなったら、何を話せば良いか浮かんでこない。頭の中で何度もシミュレーションをしているのに、会話が上手く成り立つ想像ができずにいるのだ。


(これまでわたし、どんな顔してコーエンに会ってた?)


 思えば、かなり前からクララはコーエンに恋をしていた。無自覚に心をときめかせ、ずっと彼のことを目で追っていた。けれど、きちんと自分の気持ちに向き合ったのはこれが初めてで。


(すごかったって。感動したって伝えて。それから、それから……)


 その時、クララは心臓がドクンと大きく鳴り響いた。

 クララの背をすっぽりと覆う大きな温もり。細いのに逞しい腕がクララを抱き寄せている。相手のことは見えないけれど、鼻腔を擽る香りはもう慣れ親しんだもので。


「ーーーーちゃんと見てた?」


 耳元でそう囁かれて、クララの身体は一気に熱くなった。


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