梅折りかざし、君を恋ふ 〜後宮の妃は皇子に叶わぬ恋をする〜

最終話

琳伽(りんか)、それを受け取って欲しい」
「……なんでしょうか」

 鼻をすすりながら、手巾をゆっくりと開く。
 中からは、梅の花を(かたど)った(かんざし)が顔をのぞかせた。

「陛下」
「気に入ったか」
「……陛下、子供の頃にお伝えしておくべきでしたが、簪を贈るというのは求婚する意味があります。たった今、今生のお別れを申し上げたばかりではありませんか。私のことはどうかお忘れください」
「その簪を持って、慶鵬寺(けいほうじ)に行くがよい」
「陛下!」

 琳伽(りんか)が声を張り上げるのと同時に逞峻(ていしゅん)琳伽(りんか)の腕を引き、そのまま倒れて来た琳伽(りんか)を深く抱き込んだ。

 逞峻(ていしゅん)の胸にすっぽりとはまって抜け出せない琳伽(りんか)は、梅の花に手が届かなかった逞峻(ていしゅん)を抱き上げた日々を思い出す。あの頃とはすっかり変わった包容力のある大きな胸と腕に包まれ、琳伽(りんか)は観念して目を閉じた。

「今は、琳伽(りんか)を手放すしかない。しかし、その時が来たら必ず迎えに行く。来世で会おうなどと言うな。この簪を持って、待っていて欲しい」
「……これから尼になろうとしている女に簪を贈るなど、女心を分かっていないにもほどがございますよ」

 逞峻(ていしゅん)琳伽(りんか)の髪を愛おしそうに撫で、(うなじ)に唇を寄せて囁く。

「髪なら、また伸ばせば良い。張徳妃(ちょうとくひ)の髪は、一度尼になって全て捨ててしまえ。そうすれば、その後に伸びた髪は全て私だけのものだ」


 雨が上がり、梅の花を濡らす雫が日の光を受けて煌めいた。

 髪を捨て、出家をし、逞峻(ていしゅん)を待ち続けてもよいのだろうか。
 再び伸びるであろう髪と共に、私は生まれ変わったことになるのだろうか。
 琳伽(りんか)は煌めく梅の花を見ながら自分に問う。

 待ちくたびれたのか、恐る恐る様子を見に来た侍女の朱花に、琳伽(りんか)は小さく手を上げて合図をする。
 そしてもう一度梅の花を見上げてから、琳伽(りんか)は何かを決意した顔をして、ゆっくりと梅華殿を背にして歩き出した。


<おわり>
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