聖女といえど六度の死亡エンドはうんざり。だから七回目は生き残った上で人生も恋も謳歌する予定です。追伸 暗殺者を憑依させましたので関係者はそのつもりでいて下さい

侯爵の詮索

 文字がかすれたり消えたりしていて、だれらの手紙かはわからない。宛先は、侯爵に違いないでしょうけど。

 手紙は、どうやら関係を解消したいという内容のようにうかがえる。しかも、手紙の書き主は逆持参金というのかしら、それとも貢いでもらっているのかしら。とにかく、侯爵は手紙の書き主に相当な額の金額を渡している様子である。

 お金と指輪は、ありがたくいただきます。お元気で。これからは、おたがいそれぞれの道を歩んでいきましょう。

 そんな自分勝手なことが記されている。

 しかも誤字脱字だらけだし、汚い。それらは、紙の劣化によるものではないはずね。

 読み終わってから、それをたたんで偽装本に入れた。それからまたジャンプをし、本を元の位置に戻しておいた。

 もちろん、本をわずかに手前にずらしておくことを忘れない。

 いまの手紙がアヤに関係あるのかどうかはわからない。

 だけど、何かがひっかかる。

 とりあえず、これでひきあげることにした。

 マリオの様子も見なければならないから。

 彼ったら、目をはなした隙にまた体を動かしているかもしれないんですもの。

 侯爵の書斎をあとにした。


 マリオの傷は、大分と癒えてきた。侯爵の城に身をよせてから、すでに七日は経っている。

 世話になっているお礼にということで、侯爵の手伝いをしている。

 早い話が、農作業や家畜の世話、城の掃除や洗濯、食事の準備といった家事全般を手伝っているというわけである。

 いまのところ、何もない。

 平和で穏やかな日々をすごしている。ときおり、侯爵が領地内の村や町に行った際に、王都やその近辺の領地で天災や不慮の事故が多発している、という情報を得て来る。それも、その被害はプレスティ国内にじょじょに拡大しつつある。
 
 その噂を耳にした侯爵の領地内の人々も、不安を抱いているそうである。

 もともとこの辺境の地までアヤの加護があったかどうかは、正直わからない。だけど、わたしは王都やそれに近い領地ほどには、この周辺地域にアヤの加護はなかったのではないかと推測している。

 なぜなら、聖女の加護がなくなってから、この領地内でほんのわずかでも何かあった、ということがないからである。

 たとえば、大雨が降るとか盗賊が大挙して押し寄せて来るとか。

 侯爵が王都を追われて領地内に戻ったとき、この領地はひどい状況だったらしい。管理を任せていた管理人は横領していたし、領地内も荒れに荒れていた。それを、何年もかけて立て直したのが、侯爵自身である。

 そのお蔭で、現在は様々な農作物が収穫出来るし、家畜の数も多い。

 王都に見捨てられている土地だからこそ、王都への納税も適当であるらしい。

 つまり、ほかの領地にくらべて裕福なのである。

 とはいえ、すべてが領地内で賄えるというわけではない。商人から買わねばならない物資は多い。それとは逆に、こちらの物資を売る場合もある。したがって、王都もふくめてほかの土地が荒れに荒れてしまったら、侯爵の領地もすくなからず影響が出てしまう。

 それも時間の問題かもしれない。

 領地内の問題はともかく、マリオももう大丈夫。そろそろ身の振り方をかんがえなければならない。

 侯爵は、最初のころとかわらず紳士的な態度を貫いている。とくに、わたしをどうにかしようという気配は感じられない。

 気になることと言えば、わたしがまだ自分の屋敷にいたときのことをききたがることと、マリオがだれの子なのか、厳密には母親はだれなのかを知りたがり、わたし同様にクレメンティ家での様子をいろいろ詮索していることである。

 わたしにご執心なのであれば、わたし自身のことを知りたがるだろう。マリオのことを詮索するにしても、クレメンティ家でのことではなく、わたしとの関係をつぶさに知りたがるだろう。

 そこに違和感を感じてしまう。

 朝食と夕食の際に三人で食卓を囲みながら、侯爵のクレメンティ家に対する探求心はとどまるところを知らない。

 マリオはある程度調べていた。そして、わたしとも打ち合わせをしている。だから、侯爵のどんな質問にも淀みなく受け答えしている。

 それでも、いつボロが出るかわかったものではない。

 わたし自身、七歳より以前のアヤをあまりよく知らない。嘘を重ねる内に、矛盾が出てくるかもしれない。

 一方で、どうしてそこまでアヤ個人ではなくクレメンティ家のことを知りたがるのかを知りたいのかと、興味を抱いてしまう。
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