聖女といえど六度の死亡エンドはうんざり。だから七回目は生き残った上で人生も恋も謳歌する予定です。追伸 暗殺者を憑依させましたので関係者はそのつもりでいて下さい

別れ、そして目覚め

マリオ(かれ)は大丈夫。立ち上がっていたでしょう?しゃがんでいるあなただけ、二酸化炭素を吸い込んでいる。だけど、たしかに時間はないわね。侯爵のこともあるし」

 アヤは、笑顔から真剣な表情にかわった。

 もちろん、わたしもである。

「カリーナ、久しぶりに会えてよかったわ。さあ、彼のところに戻って。そして、侯爵をどうにかしてちょうだい。これまでと同じようにね。それと、お礼に受け取って欲しいものがあるの。癒しの力よ。練習は必要だけど、あなたなら加護の力同様すぐに使いこなせるようになるはずだから」
「アヤ……、その……」

 いろいろ尋ねたいこと、言いたいことはある。だけど、何をさしおいてもきいてもらいたいことがある。

「カリーナ。あなたはもっと自分自身にたいして素直にならなきゃ。自信を持たなきゃ。いまのわたしたちは最強よ。最高の女性よ」

 彼女の手が伸びてきて、わたしの右頬をさっと撫でた。

 言いたいことを言いかけたけど、結局それが口の外に出ることはなかった。

 いいえ、違うわね。言葉に出さなくっても、聖女である彼女にはわかっているのである。

 わたしが何を言おうとしているかというこたを。

「あなたはわたし。わたしはあなた。わたしたちはわたしたち。それを忘れないでね」

 無言でうなずくしかなかった。
 もう何を言っていいかわからない。

「わたしはつねにあなたと一緒よ。それも忘れないでね」

 彼女の手が離れて行く。同時に、彼女の姿が薄くなってきた。

「アヤ、またこのようにして会える?出来れば、わたしが死にかけているときじゃない方がいいんだけど」
「ええ、そうね。がんばってみるわ」

 その言葉を最後に、彼女の姿がかき消えた。

 重い瞼を必死に開けた。

「アヤッ!」

 わたし(・・・)を呼ぶ声と同時に目に飛び込んできたのは、マリオのワイルドな美形である。

「アヤ……。あぁ神よ、感謝します」

 わたしは、どうやらマリオの両腿の上に抱かれているみたい。

 彼の必死の表情が、一瞬にして安堵の表情に変化した。

「『あぁ神よ、感謝します』って……。マリオ、あなた神を信奉しているの?」

 自分でも、それが目覚めてからの第一声?って心の中でツッコんでしまった。

 彼のあまりにも真剣な表情に、ついからかってしまいたくなったのである。

「あのなあ、アヤ……。くそっ、神などくそくらえだ。勝手に口から出ただけだ。きみに何かあったら、たとえ神であっても愛用のナイフで斬り裂いてやったところだ」
「バカなこと言わないで。バチが当たるわよ」

 自分でからかっておきながら、つい諫めてしまった。

 って、そんな場合じゃないわ。

「マリオ。あなた、大丈夫なの?姿勢を低くしたら吸ってしまう……」

 じょじょに頭の中の靄が晴れていき、すっきりしてきた。

 このときになってやっと、自分が牢の中にいるわけではないということに気がついた。

「ここは?どうして?」
「ここは石段の途中の踊り場だ。さきほど、きみは頭痛がしていたんだろう?きみが意識を失う前、しきりにこめかみをもんだり頭をおさえたりしていたんだ。それまで、まったくなんともなかったのにね。寝台が不自然なまでに低くつくられていること。死んだ暗殺者に、おれたちが認識している以外の外傷がなかったこと。そういったことから、暗殺者は毒の類か何かで死んだのかと思ったんだ。きみだけが突然気を失ったから、もしかすると空気に悪い気でも混じっているのかと気がついた。そのときおれは、立ち上がっていたからね。きみと暗殺者の共通点は、頭部が低い位置にあることだ。空気に何か混じっているのだとすれば、それは重いものかもしれない。だから、身を低くしているきみだけがそれを吸い、おれはなんともない。そう推察し、すぐにきみを担いで石段をのぼったんだ」

 すごい。彼の洞察力には恐れ入ったわ。

 アヤに教えてもらってなるほどと思ったけど、彼は少ない情報の中からそう推察した。

 地下牢に来る前、彼が「いっしょに行くよ」と言ってくれた。これまでのわたしだったら、断ったはずだった。

 だって、様子を見るくらい一人で充分。だれかの手を借りる必要なんてない。今回にかぎらず、女一匹でやってきたからこそ、とくに男の手は借りたくない。
 
 おかしな話だけど、そんなムダな意地がある。

 こんなくだらない意地は、女だから持ち合わせているものである。暗殺に従事していたときにかぎらず、女だからとか女だてらにとか、ことあるごとにあざけられて口惜しい思いをした。だから、余計に意地になっている。

 もちろんこれは、わたしだけにかぎったことじゃない。ほとんどすべての女性にいえることかもしれない。

 もっとも、女性だからという理由で得したり有利なこともあるんだけど。

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