聖女といえど六度の死亡エンドはうんざり。だから七回目は生き残った上で人生も恋も謳歌する予定です。追伸 暗殺者を憑依させましたので関係者はそのつもりでいて下さい

きみ、重いよね

 マリオが「いっしょに行こう」と言ってくれたとき、なぜかそんな女の意地よりもいっしょに来てもらいたいという気持ちの方が上回っていた。
 結果的に、彼について来てもらったから命拾いをした。
 
 もちろん、アヤが会いに来てくれた、ということもある。だけど、マリオがいっしょにいて侯爵の仕掛けたからくりに気がつき、影響の出にくいところに即座に運んでくれたことが、わたしの命を救ってくれたことにかわりはない。

 いっしょに来てもらいたくなったのは、きっと女の第六感が働いたのね。

 おそらく、そうに違いない……。 

 それはともかく、彼に二酸化炭素の影響がないと知って心から安堵した。

 自分が死にかけたということなど、きれいさっぱり抜け落ちてしまっている。

 わたし自身のことより、彼が無事だということのほうがうれしくてならない。

 この気持ちはきっと、彼についてきてもらって死なせるようなことにならなかったから、という責任逃れからきているのに違いないわね。

 アヤからきいた二酸化炭素の話を、彼に告げた。

「夢の中で啓示があったの」

 そんなふうにごまかして。

 彼は、疑わなかった。

「こいつおかしいんじゃないのか?」なんて表情を浮かべることなく、話をきいてくれた。

「きみが無事でほんとうによかった」

 彼の膝の上から彼のほっとした表情を見つめているけど、お尻の辺りが痛くて耐えられなくなってきた。

 石のとがった部分が、お尻にあたっているらしい。

「起き上がりたいんだけど」
「あ、ああ。そうだね」

 彼が支えてくれたので、ゆっくり起き上がり、ついで立ち上がってみた。

「おっと」

 一瞬ふらついてしまったけど、彼が両腕を伸ばして抱きとめてくれた。

 が、彼はわたしを抱きしめたままかたまっている。

 もうこれで何度目なの?
 またドキドキしはじめた。

「アヤ……」

 彼のわたしを呼ぶ声が落ちてきた。

「アヤ。きみは、見た目より重いんだな」

 はあ?いま、なんて言ったの?

「牢屋からお姫様抱っこしてここまで運んで来たけど、正直、途中で心が折れそうになった……、うううっ……」

 彼が腹部をおさえて前屈みになった。

「な、なにをするんだ」
「当然でしょう?あなた、デリカシーってものがないのね」

 彼の脇腹に、思わず拳をくれてしまった。
 
 もちろん、わたしが傷つけた箇所は外してあげたけど。

「わたしはレディよ。公爵令嬢で元婚約者が表現するところの偽聖女なのよ。それなのに、心が折れそうなほど重いですって?ただ単に、あなたがやわなだけよ。それをわたしの体重のせいにしないでちょうだい」
「だってほら……」

 前屈みになっている彼を、腰に手を当て見下ろしつつ非難してやった。

 しどろもどろに言い訳をしはじめた彼を見ていると、笑いがこみあげてきた。

 体重のことは、場をなごませようという彼なりの気配りということにしてあげるわ。

 すると、彼も笑いはじめた。

 ワイルドな美形に浮かぶやわらかい笑み……。

 しだいに心の中で得体の知れない何かが大きくなっていっている。

「悪かった。公爵令嬢にして偽聖女様には、体重のことは二度と言わないと誓うよ。ほら、この通り」

 彼は、片手を上げて宣言をした。

「それよりも、はやくここから出ましょう。失敗したわ。地下牢の鍵は、わたしたちをここへ来させるための餌に違いない。わたしたちを殺そうとしたのか、あるいは皇太子殿下を殺そうとしているのか、もしかするとその両方を狙っているのか。とにかく、ここにいるべきじゃないでしょう?」
「きみの言う通りだ。だけど、きみは大丈夫かい?」
「もう大丈夫」

 きっぱりと答えると、彼は一つうなずいた。それから、石段を上りはじめた。

「マリオ」

 そのがっしりとした背に呼びかけた。

「助けてくれてありがとう」

 その一言が勝手に口から飛び出していた。

 礼を言うのは当然である。だけど、これほど素直な気持ちで言えるとは思わなかった。

 石段を踏みそうになった彼の足が止まり、元の場所に戻った。

 こちらを振り返った彼のワイルドな美形に、またまたドキドキしてしまう。

 なんなのいったい?いちいちドキドキしないでよ。

 身が持たないわ。

「いや。きみには大きな借りがある。それを返すには、これくらい……」

 そう……。

 そうよね。彼にすれば、一応わたしが彼の命を救ったことになる。彼にすれば、その借りを返したにすぎないわよね。

「いいや、違う。そんなんじゃない。借りとか、そんなことは言い訳にすぎなくって……。くそっ!おれはいったい、何が言いたいんだ?」

 壁にかかっているランプのささやかすぎる灯りの下、彼のワイルドな美形は真っ赤になっている。


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