聖女といえど六度の死亡エンドはうんざり。だから七回目は生き残った上で人生も恋も謳歌する予定です。追伸 暗殺者を憑依させましたので関係者はそのつもりでいて下さい

最高最強の偽者皇太子と追放聖女

 時間がない。この夜のうちに、すべての決着をつけなければならない。

 いま、マリオと二人で第一皇子の寝室を訪れている。

 上から下まで黒一色の恰好である。

 ついいましがたまで高鼾で安眠していた第一皇子を、やさしく揺すって起こした。それから、丁寧な口調で寝台に腰をかけてもらうようお願いをした。

 彼に告げた。

 皇太子殿下とヴァスコを、暗殺者の集団が襲ったこと。だけど、それは失敗に終わったこと。暗殺者たちは、自分たちを雇ったのが第一皇子だと白状したこと。

 これらを淡々と報告した。

「ち、違う。おれじゃない。宰相だ。宰相が、『自分がどうにかするから』と言ったんだ」

 第一皇子は、首からピアノ線をぶら下げたまま泣き叫んだ。

 ピアノ線は、マリオが第一皇子に敬意を表してその太短い首にぶら下げてやったのだ。

 マリオの手に、ピアノ線の片端が握られている。彼が手をグーパーするだけで、ピアノ線はおもいっきり絞め付けられてしまう。

 第一皇子の太短い首は、瞬時にしてふっ飛んでしまうだろう。

 意地悪なマリオは、マスクの下でそんな大嘘を囀った。

 そのお蔭で、気の毒な第一皇子は小便をもらすほど怯えてしまっている。

 そして、マリオはききたい情報得た瞬間、「グー、パー」と子どもみたいにはしゃいだ。

 第一皇子がかわいそうすぎる。

 彼は小便と大便をもらしつつ、卒倒して寝台の上に倒れてしまった。

 それを見届ける暇もなく、わたしたちはつぎの目的地へと急いだ。

 宰相の屋敷は、ムダに広くて贅を尽くしている。

 だけど、皇宮と違ってそこまで警備が厳しいわけではない。

 宰相が自費で雇っている私兵は、平和ボケしていて危機感がまったくない。

 つまり、マリオと二人で侵入するのは、さして難しくも大変でもなかった。

 容易に侵入した後、豪快な鼾をかいている宰相《かれ》を、寝台の脇でじっと見下ろしつつ一息つくことが出来た。

 何かのタイミングで彼が目を覚ました。

 瞼が何度も開いたり閉じたりする。

 そして、やっと人の気配を悟ったらしい。

 口の形が大きな円形を象った。

 その瞬間、マリオが脇机上に置いてある布巾かハンカチかはわからない布を、その口の中に押し込んだ。

 宰相は、完全に喉がふさがれてしまってモゴモゴ言っている。瞼がカッと見開かれ、月光の中に浮かび上がっている二つの人影を見ている。

「宰相閣下、残念だったな。皇太子に二度も暗殺者を差し向けたあなたは、断罪される。あなたの甥っ子である第一皇子があらいざらい吐いた。もう間もなく夜明けだ。陛下より命を受けた使者が、もう間もなくやってくるだろう」

 マリオの冷たく鋭い言葉は、事実上宰相の死を宣告したようなものである。

 が、宰相は反論か言い訳をしているとしても、口を布でふさがれている為もごもごとしかきこえてこない

 もしかすると、まだ理解出来ていないのかもしれないけれど。

「まぁ、第一皇子も国外追放になるだろう。身の程知らずの末路というわけだな。んんん?なんだって?」

 宰相の目が、必死に何かを訴えている。

「ああ、いますぐ殺してほしい?残念だが、われわれはメッセンジャーであって殺し屋ではない。数日、地下牢に閉じ込められてから多くの民衆の前で首を刎ねられるのが嫌なら、使者が来るまでに自らの命を絶つことをお勧めする。ほら、見えるか?これは、即効性の毒だ。これは、あんたが皇族付きの医師に陛下や殿下に盛るよう命じた毒などとは比べものにならないほどの威力がある。使うも使わぬもあんたしだいだ」

 マリオは、そう言いつつ黒ズボンのポケットから小瓶を取り出した。それから、それをサイドテーブルの上にそっと置いた。

 わたしのお手製の毒薬である。

 葡萄酒にでも一滴たらし、流し込めばそれでおしまい、という代物である。

 彼がそれをサイドテーブルの上に置き、宰相がその小瓶を怖ろし気に視線を送ったときには、わたしたちは彼の寝室から消え去っていた。

 宰相は毒を飲んで自死した。そして、第一皇子は国外追放、第二、第三皇子は皇族から追放された。

 大きな宿痾は取り除かれたものの、小さな宿痾はたくさん残っている。

 そのすべてを取り除くことは難しくても、ある程度まではどうにかしたい。

 結局、皇帝陛下だけではなく皇太子殿下も毒を盛られ続けていたことがわかった。

 その皇族付きの医師たちも、すでに断罪されている。

 二人には、解毒薬を処方して服用してもらっている。それにプラスして、癒しの力を発動している。皇帝陛下も皇太子殿下も、もう間もなく日常生活だけでなく公務に戻ることが出来るはず。

 あれ以降、わたしは癒しの力の修行を行っているのである。それが効果を上げている。

 暗殺者のスキルの一つである解毒薬の効果よりも、癒しの力の効果があらわれることの方がよほどうれしいことは言うまでもない。

 現在、極秘で療養中の皇太子殿下にかわり、マリオが公務と反皇太子派に対処している。

 彼があれほどキレる男とは思いもよらなかった。彼の政治的手腕は、本物よりもすごいかもしれない。

 小さな宿痾を一つ一つ潰しながら、その地位を不動のものにしつつある。

 半年も経つ頃には、彼はすっかりヴェッキオ皇国の皇太子殿下になっていた。

 もちろん、わたしも一役買っている。皇太子殿下の命を救ったことで招かれた隣国の追放聖女として。

 癒しの力だけではなくヴェッキオ皇国を守護する為、力をフルにつかっている。

 どうやら、わたしもだんだん聖女らしくなってきたみたい。

 とはいえ、あいかわらずマリオにはきついことを言ったり、ふざけて殴ったり叩いたりはしているけれど。
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