「仕事に行きたくない」と婚約者が言うので
「そうか。ヘラルダはきちんと俺のことを好いていてくれたんだね」
 こっちを見て、と彼の手がヘラルダの顎を捉えた。

「キスしてもいい?」

「え、あ、はい……」
 まさか、彼から口づけを求められると思っていなかったヘラルダは、そのような返事しかできなかった。
 返事をした途端、熱い唇で口元を覆われた。ちゅ、ちゅ、という唾液の絡まるような音が響き始める。
 マンフレットとのキスは気持ちいかもしれない、とヘラルダが思っていると、唇が離れた。

「ヘラルダ、可愛い。とけたような顔をしている……。もう、我慢ができない。俺たちは婚約をしているし、何も問題はないよな?」

 何の問題か、ヘラルダにはわからなかった。

「だけど、今すぐ、子供ができると式典に支障が出てしまうし、俺もお預けを喰らっちゃうことになるから、避妊はしっかりしておこうね」

「え、あ。マンフレット様。お仕事は?」

「今日は休みの日だよ」
 しまった、と思ったヘラルダ。すでに時は遅し。そこで彼女の身体がふわりと浮く。マンフレットによって抱き上げられ、そのまま寝台へと連れていかれてしまったのだ。
 まだ侍女がシーツを取り換える時間でもない。だから、彼の匂いが残っている寝台――。


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