大蛇の花嫁
グラグラと体が揺れている。小さな体の少女が箱に入れられ、どこかへと連れて行かれていた。

少女が目を開けようとしても、その目は布で覆われている。声を出そうとしても、口に嵌められた口枷によってその声は封じられ、体を動かそうとしても手足は縛られている。少女は箱の中に監禁されていた。

少女ーーー桃(もも)が何故縛られているのか、それは恐ろしい怪物への生贄に選ばれたためである。

(これから私は……)

生贄、その言葉の意味がわからないほど桃は幼くない。縄で頑丈に縛られた体は震え出し、溢れた涙は目隠しに吸い取られていく。

(お父さん……!お母さん……!)

桃の頭に浮かぶのは、桃が家から無理やり連れて行かれた際、何度も自分の名前を泣きながら呼んでいた両親の顔である。こんな形で永遠の別れが訪れるなど、誰も想像をしたことがないだろう。

桃が生贄として連れて行かれる谷には、八つの頭を持った大蛇・ヤマタノオロチがいると人々が話していた。
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