お嬢様、今宵は私の腕の中で。

「九重。いい加減にしないとクビにするよ」

「それは大変。(わたくし)九重の人生はお嬢様とともにありますので」

「っ、変なこと言わないで」



クビにするつもりはもちろんないにしろ、こうして軽い脅し文句をつけてみると、九重は意味不明なことを言って口をつぐんだ。


食堂に着くと、テーブルに料理が運ばれてくる。



「あれ、いつもより豪華じゃない?」

「お嬢様が1週間ぶりにお部屋からおいでになるということで、シェフが最大限に腕をふるって調理したそうです」

「へえ……ものすごく美味しそう」



目の前にこれでもかと並べられた多くのご馳走。



「ねえ九重。一緒に食べる?」



問いかけると、九重は首を横に振った。



「いいえ。私はここでお嬢様を見ております」

「食べたくならない?」

「私が喰らいたいのは、お嬢様ただ1人。食事になど興味ありません」

「は……?」



なんだか意味深な視線を向けてくる九重に首を傾げる。



「さあ、冷めないうちに。どうぞ、召し上がってください」

「いただきます」



促されるまま合掌して料理を口に運ぶ。



「美味しい……!」



思わず声が洩れた。


やっぱり食堂で食べるシェフの料理がダントツで美味しい。


長年食べ続けてきたこの美味しさには、どんなすごいお店の料理だって敵わないんだ。

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