お嬢様、今宵は私の腕の中で。




「お嬢様。そろそろ入浴のお時間ですが」



入浴セットを持っている九重が扉のそばで言った。



「1週間、個室のお風呂で窮屈でしたでしょう。大浴場でゆっくりしてきてください。私はお部屋で待っておりますので」

「待つ、って」

「申し上げましたでしょう?続きは今夜、と」

「……っ!」



やっぱり本気なんだ……。


何が何だかよく分からないけど、とにかく昼間の続きをするらしい。


わたし、なにされちゃうの……?



「お嬢様」



おどおどするわたしを九重は訝しげに見つめて、ゆっくりと近づいてきた。



「ちょっ……こないでっ」

「何故ですか。お嬢様、いったいどうされたのですか」

「な、なんでもないっ。お風呂入るから、それ貸して!」



九重の手から入浴セットをひったくるようにして、部屋を飛び出す。



「お嬢様!」



後ろから九重の声が聞こえてくるけど、そんなのお構いなしだ。


ばくばくとうるさい鼓動。


ほてった身体と熱い頬。


全部全部お風呂のせいにしてしまいたくて、夢中で大浴場に駆け込んだ。

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