お嬢様、今宵は私の腕の中で。

「っ……九重」



その手はしっかりと繋がれていて。


九重はハンモックの横にある椅子に座ったまま、わたしの手を握って眠っていた。


伏せられた長い睫毛が朝日を受けて、綺麗な影を落としている。



「……ここのえ」



小さく名前を呼んでみる。


けれど、よほど疲れているのか、反応を示すことなく目を閉じている。


……なんかちょっと、新鮮かも。


いつも身なりを整えて完璧執事の姿になった九重しか見たことがないので、無論、眠っている姿なんて初めて見る。


美形な人はやはり寝ていても美形のままなんだな、と少し恨めしく思ってしまう。


それにこの人、座ったまま寝てるし……。


執事服という、どう見ても動きにくくて寒い服装にも関わらず、形を崩さず規則正しい寝息を立てている。

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