お嬢様、今宵は私の腕の中で。



「お父様……お母様」


おそるおそる部屋に入ったお姉ちゃんの姿を認めて、お父様とお母様は揃って目を丸くした。


「……ひまりちゃん、なの?」


すぐに声を上げたのはお母様。

静かに首肯したお姉ちゃんのもとへ駆け寄って、その頬を静かに手でなぞる。



「帰って、来てくれたの……?」



お母様の瞳には涙が浮かんで、今にもこぼれ落ちそうだった。


「お久しぶりです。お母様」


お姉ちゃんは硬い表情のまま、お母様を見つめ返した。


「ひまり……お前」


後ろからお父様の声が聞こえてきて、びくりと肩が震える。


お姉ちゃんも同じらしく、その顔をさらにこわばらせた。

< 281 / 321 >

この作品をシェア

pagetop