お嬢様、今宵は私の腕の中で。

「それでもまだ、敬語、なんだね」

「癖なんです。長い間執事というものをしていますからね。と言っても、小さい頃は友達兼執事のようなものでしたが」


ふ、と笑う鈴月さんは、ふいにわたしの手を取った。


「……っ」

「相変わらず小さな手ですね」


ぎゅっと力を入れられた。

おそるおそる握り返す。


「お嬢様」

「もう、お嬢様じゃないのに……」


と言いつつ、お嬢様呼びが一番しっくりくる気がする。

となりを見上げると、妖艶な微笑が降ってきた。


ドキリと心臓が跳ねる。


「今夜、お嬢様のお部屋に参ります」

「えっ」

「楽しみにしていてくださいね」


そう言って口角を上げる元専属執事。


────彼はどうやら、本気らしい。

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