闇の総長はあたらよに運命の姫を求める
 ……怖い。

 ヴァンピールに襲われたときのような、死を感じるような恐怖じゃない。

 心に、じわじわと黒いものを流し込まれているような……そんな暗い恐怖だ。


 この恐ろしい人から逃げなくては。

 脳が警鐘を鳴らすのに、恐怖という名の蔦が私に絡みついて動けない。

 そんな私に、大橋さんは興奮を落ち着かせてスーツの内ポケットから何かを取り出した。


「色々と試したけれど、真理愛は私にその姿すら見せてはくれない……でも、ひと月前にやっと手がかりを見つけたんだ」


 優しく語る様は、一見心から愛しいものを見る目をしている。

 でも、一度あらわにした狂気は確実にそこに宿っていると分かった。
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