龍神様の贄乙女
 水中にいるとひんやり心地よくて、気持ちが(やわ)らぐ。

 川の流れによって深く川底がえぐられた淵は、上空から見ると浅瀬から深い所へ向かって翡翠色(ひすいいろ)緑混じりの藍色(なんど色)少し暗い青緑色(鴨の羽色)……と色相を変える。
 その中、水深の一等深い鴨の羽色の地点にある岩陰に、薄青藤色をした卵型の大きな玉があった。

 別に己の身とは連動なんてしていないのに、背中の不調に玉の安否が気になってしまった。が、やはりこちらは無事みたいだ。
 その事に安堵しつつ、外が大雨な事を考慮していつも通り宝玉をそっと胸へ抱き寄せたら、辰の心音を拾ったのだろうか。トクトクと腕の中で玉が震える。


 痒みと熱を訴える背中から、更に数枚ほろほろと鱗が抜け落ちて。それに比例するみたいに水中での呼吸が浅くなったのを感じた辰は、不安を覚えずにはいられない。

 これは、(きよ)以外の女に心を砕いた報いだろうか。

 ふとそんな事を思って、辰は水の中、泡も吐き出さずに小さく吐息を落とした。
 彼の腕に抱かれた宝玉が、そんな辰を静かに見守っていた。


***


 不安を抱えながら里へ戻った山女は、里人に見つかるなりまるで罪人でも引っ立てるみたいに乱暴に腕を掴まれて里長の元へ連行された。
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