龍神様の贄乙女
 白装束を血で(けが)すことは良くないから、と里長(さとおさ)の妻の手によって月帯(けがれぬの)――いわゆるふんどし――に、折り畳んだ端切れ布を挟み込んで対策は講じさせられているけれど、山女(やまめ)自身は初めてのことでどうにも勝手が分からない。

 こうして狭い空間の中に座ったままでいると、知らない間に血が漏れ出して美しい着物を汚してしまっているんじゃないかと不安でたまらない山女だ。

 確認したくても駕籠(かご)の中は暗く、また身動きが出来るほどのスペースもない。

 このまま、この小さな輿(こし)の中で血の穢れを抱えたまま凍え死んでしまうんじゃないかと怖くなった。

(私、龍神様に娶って頂かなくてはいけないのに)

 それが、男を知らぬ乙女としての純潔を散らされることを意味するのか、それとも喰らわれて龍神様の糧となるのか、山女には分からない。

 分からないけれど、龍神様に気の済むようにして頂かないと、自分の存在意義がなくなってしまうことだけは確かだった。



 どのくらい心細い思いを抱えて狭い空間の中で縮こまっていただろう。
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