【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
 伊織は目を細めてそう言うと、後ろに控えていた人達に何やら指示を出した。


「なにを……⁉」

 叫ぶ私からその人達は永人を奪うと、彼の鼻と口を布でふさいだ。

「ぅぐっ」

 私も永人も抵抗しようとするけれど、体が思うように動かせない。

 永人を取り押さえる一人に止めてと掴みかかることしか出来なかった。


 そうしているうちに、永人の瞼が完全に落ちる。

 体の力も抜けてしまったようで、意識が無くなってしまったみたいだった。

「なが、と……?」

 そのまま永人は床に放置され、彼を取り押さえていた人達が今度は私の腕を掴み引き上げる。

 無理やり立たされて足がふらつくけれど、両腕をしっかり持ち上げられている状態だから倒れることはなかった。


「濃度を高めにした薬を吸わせたんだ。しばらく意識は戻らないだろう」

 優し気な微笑みは消えたけれど、また別の笑みを口元に宿しながら伊織は岸を見下ろす。

 そのほの暗さを宿した目が私に向けられた。


「“唯一”との別れがこんな形になってしまってすまないね。でも大丈夫、早ければ四、五年で彼のもとに戻れるから」

「四、五年……?」

 子供を一人だけと望むには長い年月に疑問を浮かべる。

 すると伊織は申し訳なさそうに眉尻を下げた。


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