【完全版】妹が吸血鬼の花嫁になりました。
 感情のままに叫ぶと、次の瞬間には首を掴まれていた。


「っ!」

「嫌に、決まっているだろう……?」


 こちらを向いた伊織の表情に笑みはない。

 無表情で、その茶色の目だけが怒りで赤く燃えているかのようだった。


「それでも君の……始祖の血が必要なんだ。この際男児でなくてもいい、始祖の血を月原一族に取り込むことが出来ればあいつらを黙らせることが出来る」

「っ……」

 その目に圧倒される。

 絞められてはいないけれど、掴まれている首が苦しい。


 伊織の怒りと、相応の覚悟を感じて私は言葉に詰まった。

 でも、これだけは聞きたい。


「月原家を捨てて、シェリーと逃げようとは思わなかったの……?」

 シェリーは、伊織は優しい人だから出来ないのだと言っていた。

 一族を見捨てることが出来ないからなんだと思っていたけれど、今感じた怒りに一族への情のようなものはそれほどないように思える。


 私の質問に、首から手を離した伊織は怒りを鎮めて淡々と話す。

「……私が逃げたところで同じ思いをする者が増えるだけだ」

「どういうこと?」

「私が逃げれば次に当主として担ぎ上げられるのは私のはとこになるだろう。彼は月原家とは関わりのない場所で生きている。聞けば、その彼にもすでに“唯一”がいるらしい」

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