元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。

「ほら、行くわよ」

 アンナがそう言って再び歩き出したときだった。
 丁度廊下の向こうでガチャと扉が開いて、書類を手にしたユリウス先生が部屋から出てきた。

「あ、ユリウス先生!」

 アンナが手を上げながらそう声をかけて、先生がこちらを振り向いた。
 途端、先生は持っていた書類をバサバサと落とした。

(え?)

 目を瞬く。アンナもそんな先生に驚いたようで手を上げたまま固まっていて。
 ユリウス先生はそれを拾おうともせずに、そのままズンズンと荒い足取りでこちらにやってくる。そして。

「何があったんです」

 そう、私の前に立って静かに訊いた。

「え、ええと……」

 先生は真顔で、怒っているわけではないのになんだか物凄い圧を感じた。
 そのせいもあってすぐには答えられないでいると、代わりにアンナが説明してくれた。

「さっき、レティの近くに花瓶が落ちてきたんです。その破片で足を切ってしまって」
「……傷は深いのですか?」

 小刻みに首を横に振ると、先生はふぅと小さく息を吐いてから急にしゃがみ込んだ。

「失礼します」
「え?」
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