元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。

「ユリウス先生……?」

 不安になってもう一度その名を呼ぶと、彼はゆっくりと口を開いた。

「僕に前世の記憶なんてものはありません」
「! ――で、でも先生は間違いなく」
「もう来ないでください。はっきり言って、迷惑です」
「!?」

 冷たい言葉が胸を刺した。
 そしてユリウス先生はくるりと背を向けて行ってしまう。先ほどのクラウスのように。

「待って……先生、待ってください! ユリウス先生!」

 走って追いかけるけれど追いつけない。先生はどんどん離れていってしまう。

「ユリウス先生!」

 悲しくて、胸が痛くて、私は泣きながら走って、走って――。



「レティ!」
「!?」

 ハっと目を開けると、アンナが心配そうな顔でこちらを見下ろしていた。
 
「大丈夫? 大分うなされていたけれど」

 部屋の中が明るい。カーテンの隙間から柔らかい光が差していてもう朝なのだとわかった。
 ゆっくりと息を吐きだして、気だるい身体を起こしていく。

「嫌な夢、見ちゃって」
「ユリウス先生の夢?」
「!」

 私が目を大きくすると、アンナが微笑んだ。

「名前呼んでいたから」
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