元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。

「ねぇ、クラウス」
「はい」
「これからどこへ行くの?」

 先ほど彼は国を出ると言っていたけれど。いま一体どこへ向かっているのだろう。
 クラウスはもう一度こちらを振り返る。

「不安でしょうが私にお任せください。必ず姫様をお守りしますから」

 変わらない、私の大好きな声と笑顔。
 けれどやっぱり不安は消えなくて――。

「ねぇ、クラ」
「姫様」

 ぴたりとクラウスが足を止めた。

「足元が悪くなってきましたから、手を繋ぎましょうか」
「え?」

 目の前に大きな手が差し伸べられて、私は驚く。
 クラウスと手を繋ぐなんて、小さな頃以来かもしれない。

「え、えぇ……」

 その大きな手におずおずと触れると、思った以上に強く握り返されてどきりと胸が跳ねた。
 辺りが暗くて良かった。きっと今私の顔は真っ赤になっているだろうから。
 クラウスはそんな私に微笑んで、また歩き始めた。

(あたたかい……)

 彼の体温に触れたからだろうか、心に小さな火が灯ったようだった。
 ほんの少しだけ、不安が消えた気がした。

 ……どこだっていい。
 クラウスと行けるのなら、どんなに遠い国だろうと構わない。
 クラウスと一緒なら、クラウスがこうして傍に居てくれるのなら、私はどこでだって生きていける。

 ――彼と共に、生きたい。

 そう思ってしまった。

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