元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。



「終わりましたよ」
「――え?」

 ぱっと目を開けると、彼が安堵するような優しい表情で私を見下ろしていた。
 確かに衝撃のあった胸元を見るが、そこにはもう剣は刺さっていなかった。
 恐る恐る触れてみるが痛みも、傷口もない。

「これで、貴方が今世起こした奇跡の浄化は出来たはずです」
「今世起こした……?」

 私が今世起こした奇跡。
 それは、ラウルを助けた時のことだろうか。

 と、彼は私をその場に優しく寝かせてくれた。

「疲れたでしょう。少しこのまま横になっていてください」

(終わった? 本当に……?)

 あまりにあっさりと終わったせいか、なんだかピンとこない。
 皆も、呆気に取られているのだろうか。誰の声も聞こえない。

 でも何か。
 何かを忘れているような。
 言いようのない気持ちの悪い感覚。不安。

 そして気付く。
 私の腕にはまだ禍々しい茨の蔓が存在していることに。

「あ……」

 この不安を彼に伝えたくて、口を開いたそのときだった。
 風を切る音と、肉を断つような嫌な音がした。
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