元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。

(あ……)

 そうだ。昨夜、彼が怒っていたことをすっかり忘れていた。

「――あ、あのね、ラウル」
「信じたくはねぇけど、その聖女の力ってやつで俺は助かったんだよな」

 そう独り言のように呟いてから、彼はよっと勢いつけて身体を起こした。
 そしてこちらに顔を向け、ぶっきらぼうに言い放った。

「ありがとな。レティ」
「!」

 その言葉を聞いた瞬間、私の中で張り詰めていた何かがプツンと切れた気がした。

「――おわっ!? お前、なに泣いて……!?」
「っ、ごめ……安心したら……なんか急に……っ」

 気付いたら零れていた涙を慌てて拭う。
 
 ユリウス先生のこと、ルシアンさんのこと、そして、この聖女の力。
 わからないことだらけだ。――でも今は。

(ラウルが無事で、本当に良かった……!)

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