元聖女ですが、過保護だった騎士が今世(いま)では塩です。

 ごくりと知らず喉が鳴ってしまっていた。
 もし本当にそうなら、見た目もあの頃と変わらず、身分も名前もほとんど同じだなんて……。

「俺は危うく隣の王子様に殺されそうになったってことかよ」
「……先生、大丈夫かな……」

 小さく呟く。
 先生は彼をどこへ連れていったのだろう。
 当局という言い方をしていたけれど、下手に憲兵たちの元へ連れて行ったりしたら大変なことになる。最悪、彼を捕まえた先生の身だって――。

「そこで先生の心配……流石だわレティ」
「え?」

 顔を上げると、アンナとラウルが呆れたような顔をしていた。

「だ、だって」
「まぁでも、この事が表沙汰になれば国際問題になりかねないからな。ファヴィーノ家のこの俺が刺されたんだぜ? 父上や貴族院のおっさん達が黙ってないだろ」
「ラウル、あんたまさか……」

 アンナが疑わし気な目で見上げると、ラウルは慌てたように首を振った。

「や、言う気はねぇけどな」
「そうよ。もしそれでレティのこともバレたりしたら大変だもの」
「え?」

 アンナは私の方を見て、声を潜め続けた。

「だってそうでしょ? レティがその『奇跡の力』を持ってるってことが知れたら、きっと悪いことを考える人だって出てくるに決まってるもの」
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