怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました
両親のように記念日にしたいと言っていた誕生日にそばにいられず、気の利いた愛の言葉も告げられない。おまけに二ヶ月以上連絡を寄越さない男など、もう見限ったのだろう。
(だから連絡先を変えたのか……)
連絡手段がないのなら今すぐ日本に飛んで直接彼女と話をしたい気持ちはあったが、形にしなくてはならない施策や条約が山のようにある。
他の男と幸せに暮らしているのなら、もはや自分の出る幕はないのだ。
拓海は無心で目の前の仕事に打ち込み、沙綾を帰国させてから二年。長期の休暇をとって日本に一時帰国した時には、マンションはもぬけの殻だった。
テーブルには不自由しないよう渡したカードが置いてあり、彼女がここに住んでいた痕跡はなにひとつ残されていない。
なにかを察したようなコンシェルジュから申し訳無さそうに小さな封筒を渡され、中を見ると部屋の鍵だけが入っていた。
(やはり、俺は振られたのか……)
大地から聞かされた話が現実味を帯び、沙綾を失ってしまったのだとじわじわと実感となって襲いかかる。
それでも一縷の望みをかけ、拓海は知り合いを通じて沙綾を探した。
こそこそと調べ回るなどストーカーのようで気が引けたが、彼女の口から事実を聞かないとどうしても諦めきれない。
期限は休暇で帰国中の一週間。その間に見つからなければ、もうすっぱり忘れようと決めた拓海だったが、紹介された興信所は想定以上に優秀だった。