怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました

確か弟の大地は三年前、『相手の奴を“ユウキ”って呼んでたのも聞こえた』と言っていた。もしそれが目の前の人物だとすれば、とんだ勘違いだということになる。

仕事では迅速に物事を処理していく能力に長けている拓海だが、今は思考が一切まとまらない。

呆然と立ち尽くしていると、湊人を膝に乗せた沙綾からの視線に気が付いた。驚きと戸惑いの入り交ざった表情は、きっと自分と同じだろう。

彼女の隣に膝をつき、そっとその頬に指先で触れた。

「……沙綾。話がしたい」

もう逃げられたくない。離したくない。そばにいてほしい。

今までになく女々しい感情が自分の中に渦巻いて、かっこ悪い程手が震えた。

縋るように見つめると、沙綾は拓海の手を取って頷いてくれた。それを見ていた“ユウキ”と呼ばれた人物が湊人を公園へ連れ出し、部屋には沙綾と拓海のふたりきり。

逸る気持ちを落ち着かせながら、俯いたままの沙綾に問いかけた。

「あのユウキさんというのは」
「私の高校時代からの親友です。婚活パーティーを勧めてくれたのが彼女で、今は劇団の近くに引っ越しちゃったのでなかなか会えないんですけど、帰国してから一年はずっとそばにいてくれてて」
「劇団?」
「話したことなかったですか? 彼女、ミソノのトップスターなんです。ベルリンの壁の舞台は彼女が主演の作品だったんですよ」
「ミソノの男役か。どうりで……」

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