怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました

イヤイヤ期は子供の成長過程にとって大切な期間で、あれもこれも嫌だと喚く子を受け止めることで自己肯定感を高めてあげられるらしい。

理解してはいるものの育児書通りいかないのが育児というもので、これまでは沙綾の言う通りに行動していた湊人も、ことあるごとに「いやだ」を繰り返し、今夜もお風呂に入る入らないの攻防をかれこれ二十分は繰り広げていた。

「湊人。それじゃあ俺と入るか? たまには一緒に」
「やだ! たくみはあっちいって!」

特に拓海の休日が酷い。

あれほど彼に懐いていた湊人だが、ここ最近は大好きな母親を取られてしまう気配を感じ取ったのか、敵対心とまではいかないものの拓海に対し当たりが強い。

拓海が仕事で家にいない日は比較的一人遊びもできるのだが、休日になると沙綾の膝の上から動かず拓海を遠ざけようとするので、急な反抗期に心なしか拓海も寂しそうな顔をしている。

この時期は仕方がないとはいえ、なんでもかんでも許すわけにはいかない。

「湊人。湊人があっちいってって言われたらいやでしょ? 言われたらいやなことは人にも言わないの」
「やだ!」
「湊人!」

つい声が大きくなる沙綾の背中を、拓海がぽんぽんと叩く。

「大丈夫。湊人、俺は部屋にいるから、ママと風呂に入ってこい」
「ごめんなさい、拓海さん」

彼が父親なのだと湊人に話したいと思っていた矢先にイヤイヤ期が始まり、完全にタイミングを失ってしまった。

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