怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました
「城之内さん、さっきご自分で『そもそも俺は恋愛に興味がない』って言ってたじゃないですか」
「そうだ。だからこそ契約結婚を提案したし、沙綾を妻にした以上、他の女は不要だ」
まるで自分だけを大事にしてくれるような言い回しをされ、契約上の話だとわかっているのに鼓動のリズムが早くなる。
「恋愛結婚じゃなかろうと、信頼関係を築くことはできるだろう。妻としての君の尊厳を傷つける真似は決してしない」
お酒のせいなのか、外交官らしい言葉巧みな彼の交渉術のせいなのか。拓海が望む方へ思考が揺らいでいく。
「不安なら期限を決めよう」
拓海はひと呼吸置いてから、真剣な眼差しで沙綾を見つめた。
「三年。ドイツへ赴任するのは三年の予定だ。その間だけ、妻として俺と一緒にいてくれないか」
「三年間だけ?」
「そうだ。その後どうするかは君の自由だ。もちろん、就職先や住む場所など、手助けが必要なら全面的にバックアップする」
恋愛はもういらないと思っていた。
恋人に裏切られるのはこりごりで、自分には大切な友人とミソノさえあればいいと本気で考えていた。
契約結婚を提案され、常識はずれだと思っていたけれど、目の前の拓海は、信頼関係を築こうとしてくれている。
仕事を辞めたくても辞められず、頼れる人もいない。
それならば、彼の提案に乗ってみるのもいいのではないか。
「俺は、君を裏切ったりしない」
その言葉が、引き金だった。
「よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる沙綾を見て、拓海は目を細めて満足げに微笑んだ。
「よろしく、奥さん」