怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました
(本当の夫婦になれたと思ってた。だけど拓海さんにとって、私は本当にただの契約妻だった……)
とっくに吹っ切ったと思っていた感情に飲み込まれそうになり、沙綾は慌てて唇を噛み締める。
「まーま?」
部屋に入ろうと言いたげに、繋いだ手を湊人にツンツンと引かれ、ハッと我に返る。
「ごめんごめん。おうちに帰ろうね」
動揺している場合じゃない。
彼は明日、十時に迎えに来ると言って去っていった。
相変わらずこちらに考える隙きを与えないやり口で、連絡先を知らない以上、断るすべもない。
それに、きっと明日逃げたところで、いつか捕まるだろう。
城之内拓海とは、一度決めたことはやり遂げる。そういう男だ。
遅かれ早かれ向かい合わなくてはならないのなら、腹を括るしかない。
沙綾は湊人に笑顔を向けてアパートの階段を上りながら、明日はどうなってしまうのだろうと内心不安でいっぱいだった。