怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました
「今まで、あの場所でよく耐えたな」
「た、拓海、さん……」
「君はこれまでひとりで頑張ってきたんだ。これからは、俺がそばにいる」
思いがけない言葉を掛けられ、じわりと目頭が熱くなる。
(あ、やばい……)
ずっと堪えていた感情が決壊し、涙となって溢れてきそうだった。
こんな往来で泣き出すなんて、きっと拓海を困らせてしまうに違いない。
焦って俯いた沙綾は、泣き顔を見られまいと唇を噛み締める。
すると、手首をグッと引っ張られ、拓海の胸へ飛び込む形で抱きしめられた。
「あっあの……」
「泣きたいなら泣けばいい。そして、すべて忘れろ」
ぶっきらぼうな言葉だが、拓海の腕の中は温かく、声音は穏やかで余計に泣けてくる。
「君にはもっと相応しい居場所があるはずだ」
幾筋もの涙を零しながら、沙綾はその優しさに甘えることにした。
(相応しい居場所を、見つける努力をしよう。それはきっと、この人の隣ではないけれど……)
三年。それは拓海が言い出した契約結婚の期限だ。
日本に帰国したその後は、きっと周囲にはなにか理由をつけて離婚を報告し、別々の道を歩むのだろう。
その時になったら、ゆっくりと新しい自分の居場所を見つけていけばいい。
それまでは、彼の妻として、精一杯役に立てるように努力しようと思った。
彼が妻を守るのが夫の義務だと言うのなら、夫を支えるのが妻の義務だ。
沙綾は拓海に抱きしめられたまま、三年間だけ、彼の妻となる覚悟を決めた。