怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました
帰国後、拓海に指示された住まいを見上げた沙綾は、もはや泣くことすら出来なかった。
コンシェルジュや警備員が二十四時間体制で常駐する高層マンションで、間取りは3LDKのファミリータイプ。
これからひとりで生活する沙綾にはあきらかに分不相応だ。
「手切れ金代わりってこと……?」
誰にともなしに呟くと、ひきつった顔で乾いた笑いを溢す。
こんな風に終わりが来るだなんて思ってもいなかった。
結婚の申し入れも唐突だったが、最後まで怒涛の展開の連続で、沙綾の感情を差し挟む余地もなかった。
自分が決めたことはやり遂げるという拓海の姿勢を、こんなところでまざまざと見せつけられるとは。
(やっぱり、もう私に恋はいらない)
一夜にして築かれたベルリンの壁と同様に、沙綾の心にも強固な壁が作られていく。
まさかお腹に拓海との子供を授かっているとは、この時の沙綾は知る由もなかった。