怜悧な外交官が溺甘パパになって、一生分の愛で包み込まれました
テーブルに一度も使わなかった彼のクレジットカードを置いて、沙綾は拓海との繋がりをすべて断ち切った。
ただひとつ、彼の息子である湊人を除いて。
帰国して二ヶ月後、沙綾は自分が妊娠していると気がついた。
もちろん父親は拓海しかあり得ないが、彼に子供を授かったと報告することは出来ない。
『俺が連絡するまで、悪いが沙綾からは連絡しないでほしい』
沙綾の誕生日にも、帰国から一ヶ月経っても彼からの連絡はなかった。タワーマンションを手切れ金として契約妻の役割をお払い箱になったのだから、妊娠したなどと言われても迷惑だろう。
沙綾自身、身籠った現実に戸惑い、生む決断をするのに迷わなかったと言えば嘘になる。父親のいない子にしてしまう罪悪感、子育て経験者の一番身近な先輩である母がいない不安など、ネガティブな感情に押し潰されそうだった。
そんな時に支えてくれたのが、親友の夕妃だ。
突然結婚すると言って日本を発ち、たった四ヶ月足らずで帰ってきた沙綾を、夕妃はなにも言わずに迎え入れてくれた。
『“たとえ何度高い壁に阻まれたとしても、君への愛は永遠に潰えることはない”……なーんてね。大丈夫、沙綾の面倒くらい見てあげるから』
『夕妃……』
失意のどん底でどうしていいかわからず途方に暮れていた時、彼女は自身が舞台で忙しくしているにも関わらず、沙綾の好きな芝居のセリフを再現してみせたりと、なんとか励まそうと必死になってくれた。