年下彼氏の結婚指導
06. ※ 翔悟①
 華子は必死に翔悟を遠ざけようと、駅まで送ると言う申し出すら躱そうとしたていが、「……駅の場所分かるの?」という一言に撃沈していた。
 翔悟は何だかんだと理由をつけて、彼女の最寄駅までついていく。

 その間の華子の挙動はまあまあ面白かった。
 知り合いに見咎められたらどうしようかと、彼女の視線は不審者のごとく忙しない。
 そんな華子の様子が楽しくて、翔悟はつい微笑ましい気持ちになる。それを見て華子が悔しそうな顔をするのがまた堪らない。
 家までついていくと口にすれば必死に止めて、お礼を言いそそくさと立ち去る華子の背中に手を振って、翔悟は小さく溜息を吐いた。
(──良かった)

 無理矢理一歩を踏み出して、彼女の心に自身を捻じ込んだ。
 研修はあと一週間。けれど翔悟は最終日では遅いと思っていた。
 もしその日に同じように事を運んだところで、翌日からは接点が無くなる。そのまま避けられ続け、無かった事にでもされたら、折角結んだ関係も終いになる。
(冗談じゃない)
 やっと会えたのに。
 千載一遇のチャンスを得られたのに。
< 27 / 73 >

この作品をシェア

pagetop