自信過剰な院長は既成事実を作る気満々で迫ってくるんですぅ
「痛みに敏感すぎんだよ、覚悟決めろよ。ちゃっちゃっとやっちまおうぜ」
「そんなぁ、強引な」
 ドクターコートの裾をまくり上げてやる気満々な体勢に、私の体がこわばる。

「両腕つっかえ棒みたいにすんなよ、それじゃあ入れらんねぇだろ。往生際が悪ぃな、枝みてぇな手をどかせって」
 
「この両腕が最後の砦なんです。崩すわけにはいきません」
「やってろよ、いつまでもそうやってろ」
 脇腹をツンと一回突かれた拍子に、両腕が脊髄反射で隼人院長の体から外れた。

「そのままおとなしくしてろよ」
 頭を撫でてなだめられた。片側の口角を上げて笑う顔は、まるで勝ち誇った顔。

「また開くぞ。そんなに強く閉じんな、毛が邪魔。こじ開けんぞ」

「優しくって、お願いしたじゃないですか」
「おおお、吸い付いた。入ったら、すぐにフィットした、すげぇな」

「良かったぁ、ありがとうございます」
「痛くないのか? 本当に初めて入れられたんだよな?」
「疑うんですか、嘘じゃありません」

「痛くなかったのか、経験ないんだよな?」
「はい。入れてもらって初めての成功です」

「ふぅん、そうなのか。やっとだ、達成感ですっきりする。あああ、気持ち良い、最高だ」

「やめなさい! なにが性交よ! 不謹慎よ」
 甲高い声の主に向かい、私と鼻先で向かい合っている隼人院長が振り返ると仁王立ちの葉夏先生。

 思わずみたいにカーテンを開け放ったみたいで、カーテンをがっちり鷲掴みにしてわなわな震えて立っている。

「あんたたち、神聖な職場でコソコソいったいなにしてんのよ!」

「ご覧のとおりだが?」
 冷静な声の隼人院長が指先に乗せているのはソフトコンタクトレンズ。
「入れてくれって貧乏くじに頼まれた」

「これは院長でしたか、大変失礼しました」
 居たたまれなそうに小刻みにつま先を鳴らしながら、葉夏先生が言葉を続ける。

「わ、分かってましたよ。優しくしてあげてください、私にかまわず続きを」
 (きびす)を返した葉夏先生は何事もなかったように歩いて出て行った。

「変な奴」
 葉夏先生の背中を見つめる隼人院長の流れるようなEラインの曲線、いつ見てもきれいな横顔。

 油断していたら隼人院長が突然私の方に振り返るから、体がぴくりと反応する。
「なんだよ」

 目と目が合っただけで眉間に神社の鳥居みたいな皺を作って、険のある顔で睨んでくる。
 猿みたい。

「な、なんですか、人の顔じろじろ見て」
「お前にだけは言われたくないね」
 私がよく隼人院長のEラインの曲線を見ているの分かっているのかな。

「貧乏くじのまつ毛長いな、切るか」
 本気......なの.....?
「弱いんだよ、キィっと眼力強くしろよ。男に襲われちまうぞ」
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