磁石な恋 ~嫌よ嫌よは嫌なだけ?~
フラッと後ろに倒れる真海を悠馬が抱きとめた。

「おいっ!大丈夫か!?」

「だ・・・いじょ。」

───うまくしゃべれない・・・。

「病院行くぞ!」

「・・・え・・・。」

悠馬はそのまま真海を抱き上げた。

真海がタイトスカートを履いていたので下着が見えないように手に持っていた自分のジャケットを彼女の下半身にかけると歩き出す。

「・・・ちょ・・・おろし・・・て・・・。」

「うるせー、お前が何と言っても連れてくから。」

「・・・タクシー・・・。」

「そんなもんで行くより、そこの路地通ってったらすぐ病院あんだよ。俺が普段仕事でどんだけ歩き回ってると思ってんだ。」

「そんな・・・の・・・知らな・・・。」

「意識失うなよ!目元デカ盛り女!」

意識を失わないように真海が反応しそうな言葉をかける。

「・・・うるさ・・・離し・・・。」

体をばたつかせて抵抗したいのに体に力が入らない。手が痺れている。

ぐったりとしている真海を見て悠馬ははっきりとした声で言った。

「ごめん。俺のせいだ。」

「・・・!?・・・」

耳を疑っていると、彼はずんずんと歩き、真海を抱いた状態でギリギリ通れるくらいの細い路地に入る。

体が動かない、言葉も思うように話せない、意識もボーッとする。真海はこのような状態になったのは初めてで、訳がわからず不安だった。

このまま自分が(かす)んでいって消えてなくなってしまうのではないかという錯覚に陥る。

「大丈夫だからな。」

彼女の不安を知ってか知らずかそう優しく言った悠馬の腕に力が入る。

嫌いという感情を抱くことさえ出来ないくらい受け入れられない存在であるはずの彼のその言葉に本当に大丈夫な気がしてきてしまって、そんな自分に戸惑う。

「着いたぞ。」

路地を抜けると病院の建物が見えた。真海の顔を覗き込みながら言う悠馬は髪も顔も汗だくだ。けれど彼の力強い眼差しは真海を安心させた。

───こいつが、居てくれてよかった───。

真海は朦朧(もうろう)とする意識の中で、悠馬の逞しい腕の感触を感じながらそう思った。
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