磁石な恋 ~嫌よ嫌よは嫌なだけ?~
目の前には白い天井が広がっていて、左手には管が繋がっている。

───ああいう風に抱き上げられた経験、初めてじゃない。でも、今日みたいな安定感なくて、相手が重いだろうなってヒヤヒヤして・・・でもなんだろう、あいつだと・・・なんかすごく太い木の枝の上に乗っているみたいで、頑丈で揺らがなくて安心出来たっていうか・・・あと頭が触れてたがっしりした胸板も太い木の幹みたいで・・・木に登った経験なんてないけど・・・自分がどうなっちゃうかわからなくても、この木に乗ってれば大丈夫って思えた。いや、何考えてるんだろう私、いくら体調悪いからって・・・あいつはただの筋肉バカなのに・・・暑さでおかしくなっちゃったのかも・・・。

真海はベッドが複数並ぶ処置室の一番奥、窓際に横たわっていて、他のベッドは空いているようだった。

ドアが開く音がして、足音がする。

───看護師さんかな。『大分よくなりました。』って言おう。

しかしカーテンからぬっと顔を出したのは悠馬だった。

「あ、起きてたんだ。」

「!!!ちょっと、入るならノックくらいしてよ!」

慌てて目より下を布団で隠す。

「寝てるかもと思って・・・普通に話せるようになってよかった。」

「・・・お、お陰さまで!!」

なぜかキレ気味の口調になってしまう。

「それ、全部終わって検査して異常なければ帰っていいって。」

悠馬が管の先のパックに入った液体を見て言う。もうすぐ終わりそうだ。

「私も言われた・・・てゆーか、あんたずっといたの?」

「ああ、ラウンジで仕事してた。会社に電話したらチームリーダー(葉吉さん)すげえ心配してたぞ。今日金曜日だし、病院で帰っていいって言われたらこのまま帰ってゆっくり休めって。」

「そっか。」

───私がここで寝てる間2時間も待っててくれたんだ。会社近いから帰れたのに・・・。

診察を待つまでの間、真海が意識を失わないように悠馬はずっと話しかけ続けた。

診察後処置室のベッドに寝かされると、『ゆっくり寝てろ。』と頭をポンとしながら言うとどこかに行ってしまった。その後真海は寝不足もあってすぐに眠りについたのだった。
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