磁石な恋 ~嫌よ嫌よは嫌なだけ?~
「『(むらさき・し)を使った名前』?あっ、紫って・・・!」

真海は磁石のネックレスに視線を移す。家では常につけるようになっていた。

「・・・覚えててくれたか。」

「『俺が赤でお前は青で真逆だけど、赤と青の絵の具混ぜたら紫色が出来る、新しい何かが出来る』って言ってたよね。だから紫なんだ。」

「わ、悪いかよ。前から思ってたんだよ。子どもが出来たら『紫』を使った名前つけてえなって。俺とお前の間に出来た子どもだから・・・俺とお前の・・・間に子どもが・・・命が・・・出来たんだな・・・。」

悠馬の瞳から大粒の涙がぽろぽろと落ちてきた。

「は!?な、何、泣いてるの!?」

「泣いてねえ!心の汗だって言ってるだろ!俺は心も汗かきなんだよ!」

「本当、暑苦しい。娘だったら絶対嫌がられるわ。『パパ、汗臭い。』って。パパ・・・あんたがパパで私がママ・・・。」

真海の瞳からも悠馬に負けないくらい涙が溢れてきた。

「真海・・・。」

「最悪!あんたの汗かきがうつったわ!ティッシュ・・・。」

テイッシュをとりに部屋に入ろうとする真海を悠馬が抱き寄せた。

「ここで拭け。」

悠馬の胸に顔を押しつけられる。彼の温もりがより涙を誘った。

「う、うわー汗で湿ってる、まだ春なのに。この汗臭ムサゴリラが!」

そう言いつつ真海は悠馬の胸に深く顔を(うず)めた。

「うるせえ・・・好きだ。」

そんな彼女を悠馬はますます強く抱きしめた。

桜の花びらがひとひら空を泳いでいく。それが奇跡的に空にハート型を描いたけれど、お互いだけを見つめている真海と悠馬は気づく由もなかった。

春の暖かな陽射しが二人、いや三人を柔らかく包んでいた。一緒に笑ったり泣いたりしながら手を繋いで踏み出す新たな一歩。その一歩一歩が未来を創っていく。まだ見ぬ未来には不安もあるけれど、愛する人と一緒ならきっと幸せなものになる。そんな自信と希望に満ちていた。





───『磁石な恋 ~嫌よ嫌よは嫌なだけ?』~ 完───

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