磁石な恋 ~嫌よ嫌よは嫌なだけ?~
その後30分程飲んでから雑居ビルの地下にある居酒屋を出た。

真海が階段に向かおうとすると突然悠馬に手を引かれ、階段裏の暗いスペースに引っ張りこまれた。

何が起こったかわからないでいると、グッと抱きしめられて唇に柔らかいものが触れた。

「・・・!!!」



「・・・ま、また『つい』したの?」

───猫カフェの時といい、こないだの消毒のキスといい、今回といい、いつも急だな。

顔が離れると真海は俯いて少し責めるように尋ねる。何か言わないと照れてしまってどうしようもなかったのだ。

「いや、違う・・・今日はその、飲んでる時からしたいって思ってて・・・。」

悠馬はバツが悪そうに頭をかきながら答えた。

「・・・だったらもっと夜景の綺麗なとことか、公園とかそういうとこのが良かったな・・・。」

「・・・悪い、我慢できなかった。」

悠馬が沈んだ声で言うと、真海は暗がりから出て階段に向かいながら穏やかな声で言った。

「でも、こういうのもあり、かな・・・。」

───あり、どころか・・・すごく鼓動が速くてどうにかなっちゃいそう。深いキスでもなかったのに・・・。

「・・・そ、そうか。」

───ああ、俺、今までにもっと恋愛しておけばよかった・・・女心っていうの、ちゃんと学んでおけばよかった・・・そうしたらこいつのこともっと喜ばせられるのに・・・でも、自分がこんなに人を好きになるなんて想像もしてなかったしな・・・。こいつといると何だか今までとは違う世界で生きているみたいに毎日が新鮮なんだよな。

悠馬は階段を登る真海の後ろ姿を見ながら柔らかく微笑んだ。
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