大嫌いの先にあるもの
ホームにアナウンスが流れ、車両が入って来た。

車両のドアが開くと逃げるように飛び乗った。
鼓動がいつもよりも早く打っている。胸が熱い。大声で叫んだから。

ドアが閉まり、地下鉄が走り出した。
ホームを見ると黒須はその場に凍り付いたように立っていた。
余裕たっぷりの笑みは消え、打ちひしがれたような表情に見えた。

まさか、黒須がそんな顔をするなんて……。
 
いつも余裕のある表情を浮かべてて、簡単に心を見せない奴なのに。
美香ちゃんの死に対しても悲しんでるのかわからないぐらい、心が見えないのに……。

なんで悲しそうな顔をするの?
私の言葉に傷ついたの?

小さくなっていく黒須の姿に胸が締め付けられた。

車両が次の停車駅に着くと、タイミングよく反対のホームに地下鉄が止まってる。

あれに乗れば引き返せる。

反対の車両に駆け込むと、すぐに扉が閉まり発車した。

引き返すなんてどうかしてる。
そう思うけど、深く傷ついたような黒須の顔が頭から離れなかった。
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