大嫌いの先にあるもの
春音はパーティー会場となっている庭のさらに奥へと進んでいく。

「どこに行くんだ?そっちは何もないぞ」

「どこだっていいでしょ」

「勝手に進んだら三田村会長に叱られる」

春音の足が止まった。

「三田村会長?」

振り返った春音の目が誰それって言ってるみたいだった。

「この屋敷の主でパーティーを開いた人だよ。三友商事の会長をしている」

「三友商事って大手町にでっかいビルがあるよね。あそこ?」

「そうだよ」

春音の目が驚いたように見開いた。

「あんな大きな会社の会長さんのパーティーだったんだ。なるほど。セレブばっかりなのもわかる」

納得したように春音が頷いた。

「黒須って凄い人と知り合いなんだね。もしかして総理大臣とも知り合い?」

春音の発想がおかしい。

「さすがに総理大臣とは知り合いじゃないよ」

「でも、国会議員ぐらいなら知り合いいるんでしょ?」

「仕事上つきあいがあった人はいるが、今は全くないな。政治家の相手はあまり得意じゃないんでね」

「黒須でも苦手な人っているんだ」

「当たり前じゃないか」

「今日は国会議員さんとかいそうだね」

「さっき大臣を見かけたよ」

「すごーい、大臣まで来ちゃうパーティーなんだ。何のパーティーなの?」

「三田村会長の奥様の誕生日パーティー」

春音が困ったような顔をした。

「どうしよう。私、何もプレゼント持って来てない」

気遣いが微笑ましい。

「心配いらないよ。僕がもうプレゼントは渡したから」

「何をあげたの?」

「いい物」

「いい物って?」

「耳かして」

春音が言われるまま近づく。甘くてスッキリとした香りがする。普段から香水はつけてないから、おそらくシャンプーだろう。物凄く好みの匂いだ。これは何の香りだろうか?ホワイトムスク?
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