大嫌いの先にあるもの

保護者

9月。黒須の所に住み着いてあっという間に一ヶ月が過ぎた。
越して来た日に一ヶ月で出て行くと黒須に宣言したのに、まだ新居は見つかっていない。

探してはいるけど、敷金礼金、更新料のない物件はそう簡単に出て来ない。前に住んでいた所は特殊な所だったんだと今さら気づいた。

しかもこの生活に慣れつつある。
最初は緊張でいっぱいだった黒須との生活だったけど、今は居心地がいい。ある一点を除けばだけど……。

隣を見ると今朝も安らかな顔をして眠っているパジャマ姿の黒須がいた。

ここは私の部屋で、黒須に買ってもらった電動式の大きなダブルベッドの上に私と黒須は並んで寝ていた。

いつからかわからないけど、黒須は夜中に勝手に私のベッドに入って来て眠るようになった。なんでも私と一緒だとよく眠れるらしい。

きっと、私の事をぬいぐるみか、抱き枕だと思っているに違いない。
びっくりするから止めて欲しいと言っているが、一向に止める気配はない。

片思いの相手と毎朝同じベッドで目覚めるのは贅沢な事だけど、黒須が私の事を全く恋愛対象に見ていない事がわかるから複雑だ。

平気で同じベッドで眠れちゃうぐらい私は対象外の存在なんだろう。
こっちなんて毎朝、黒須の寝顔を見てドキドキしっぱなしなのに。

「黒須のバカ」

寝顔を見ながら呟いた。
その瞬間、パッチリと切れ長の目が開いた。

「僕の悪口言った?」
「聞いてたの?」
「やっぱり言ったんだ」

黒須の手が伸びて来て頬を軽くつねられた。

「痛いよー。何するのー」

黒須がおかしそうに笑った。

「今日も春音は可愛いね」

よしよしといつものように頭を撫でられた。
流されてはいけないと思うけど、この瞬間がちょっと幸せだから何も言えなくなる。
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