大嫌いの先にあるもの
真実【side 黒須】
「ただいま」
午後11時56分。春音と約束した日付が変わる前に帰宅した。
リビングに行くと珍しく春音が美香のグランドピアノの前に座っていた。しかもバーテンダーの制服のままだった。
春音が着替えずに帰って来たのは見た限りでは初めてだ。僕の所に越して来てからも春音は律儀に私服に着がえてからバーを出ていた。他のスタッフに僕の部屋に住んでいる事を秘密にする為だ。
「まだバーは開いてるのかい?」
からかうように言うと、春音は自分の服装を見て笑った。
「着替えてくるの忘れちゃった。今夜は何だかぼんやりしちゃって」
控えめに浮かべた笑顔がどこか浮かない。
何かあったんだろうか。
「あれかな。黒須のピアノが素敵過ぎちゃったのかな」
「聴いてた?」
春音の左隣に座りると、春音が遠慮するようにピアノの椅子を詰めた。
「もちろん。オーナーの演奏だもんね。なんか甘い雰囲気が出ていたよ」
「今日のピアノは全部、春音にプレゼントしたんだよ」
春音の頬が少しだけ赤くなる。それから怒ったような表情でこっちを見た。
「よくそういう恥ずかしい事言えるよね。そうやって女の子口説くんでしょ?」
「春音以外の子には言わないよ」
春音の頭を撫でると、恥ずかしそうに微笑んだ。
可愛いな。
「どうだか」
春音がいじけたように唇を尖らせる。
そういう表情も胸がキュンとする。
本当に春音は可愛い妹だ。
相沢に最近の僕は春音を可愛がり過ぎると言われるが、可愛いんだから仕方がない。だけど今夜はやっぱり何かある気がする。
さっきから春音は無理に笑っているように見えてしまう。
何か深刻な事を抱えていそうだ。
「春音、何かあった?」
身構えるように春音が息をのんだ。
午後11時56分。春音と約束した日付が変わる前に帰宅した。
リビングに行くと珍しく春音が美香のグランドピアノの前に座っていた。しかもバーテンダーの制服のままだった。
春音が着替えずに帰って来たのは見た限りでは初めてだ。僕の所に越して来てからも春音は律儀に私服に着がえてからバーを出ていた。他のスタッフに僕の部屋に住んでいる事を秘密にする為だ。
「まだバーは開いてるのかい?」
からかうように言うと、春音は自分の服装を見て笑った。
「着替えてくるの忘れちゃった。今夜は何だかぼんやりしちゃって」
控えめに浮かべた笑顔がどこか浮かない。
何かあったんだろうか。
「あれかな。黒須のピアノが素敵過ぎちゃったのかな」
「聴いてた?」
春音の左隣に座りると、春音が遠慮するようにピアノの椅子を詰めた。
「もちろん。オーナーの演奏だもんね。なんか甘い雰囲気が出ていたよ」
「今日のピアノは全部、春音にプレゼントしたんだよ」
春音の頬が少しだけ赤くなる。それから怒ったような表情でこっちを見た。
「よくそういう恥ずかしい事言えるよね。そうやって女の子口説くんでしょ?」
「春音以外の子には言わないよ」
春音の頭を撫でると、恥ずかしそうに微笑んだ。
可愛いな。
「どうだか」
春音がいじけたように唇を尖らせる。
そういう表情も胸がキュンとする。
本当に春音は可愛い妹だ。
相沢に最近の僕は春音を可愛がり過ぎると言われるが、可愛いんだから仕方がない。だけど今夜はやっぱり何かある気がする。
さっきから春音は無理に笑っているように見えてしまう。
何か深刻な事を抱えていそうだ。
「春音、何かあった?」
身構えるように春音が息をのんだ。