大嫌いの先にあるもの
相沢との電話を終えた後は春音に電話した。日本は今、午後3時ぐらいだ。大学での講義を終えて、バイト先に向かっている所かもしれない。あるいはバイト中か……。

出なかったら留守電にメッセージを入れておくか。

「もしもし」
電話に出る可能性は低いと思ったが、すぐに春音は出た。
二日ぶりに聞いた春音の声にほっとする。

「春音か」
「うん」
「今、大丈夫か?」
「大丈夫だよ。駅に向かって歩いている所だったから」
春音の声が何となく弾んでる気がしたのは、歩いているからだろうか。

「大学は終わったのか?」
「うん。これからバイト」
「そうか」
「黒須」
「何だ?」
「この間はごめんね」
「この間って?」
「だから、あの、研究室……」
相沢の言った通り、本当に気にしているんだな。
「せっかく誘ってくれたのに」
「来なかった理由を聞いてもいいのか?」
「いいよ。ちょっと怖かったの」
意外な言葉にベッドから起き上がった。

怖かったなんて、ショックだ。
いつでも紳士的に接して来たつもりだったが……。
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