大嫌いの先にあるもの
午後7時。

地下鉄の六本木駅で若菜とゆかと合流した。

二人とも大学で見たのとは服装が違い、大人っぽいワンピースに普段より濃いめのメイクをしている。
髪型もハーフアップで、手の込んでそうな編み込みまで入ってて女子力全開って感じで可愛い。

片や私はというと、二人の引き立て役のようにジーンズに紺色のTシャツ姿。胸元にはなぜか白字の筆記体で“sweetheart”と書かれている。買うときに意味なんて考えなかった。量販店丸出しだ。

メイクもしていない。顔にはフレームの太い黒縁眼鏡があるだけ。髪も後ろで一つにまとめるぐらいで二人に申し訳なるぐらい何もしていない。

「なんか気合入ってるね」

自分の無精な格好を誤魔化すように口にした。

「これぐらいフツーだよ。夜は楽しまないと」

ゆかがアイドルみたいにパッチリとウィンクする。

「春音ちゃんも偶には女の子である事を楽しんだら?二十歳なんだよ。今を楽しまなきゃ」

若菜が諭すように口にした。

確かにお洒落を楽しむ年ごろかもしれない。でも私はそういうのが苦手というか、目立つことが嫌い。

「お洒落には興味ないの」
「どうして?」

ゆかが不思議そうな顔をした。

「不幸になるから」
「何それ」

若菜とゆかが大げさに眉を上げて笑った。

変な事を言ったつもりはなかったけど、二人には可笑しいらしい。

「何でもない。行こう」

地下鉄の外に出ると六月の生ぬるい風が頬をかすめ、わくわくするような夜の匂いがする。

素敵な事が起こるような、そんな気持ちになる匂い。

ジャズバーに行くと決めた時も楽しみで仕方なかったけど、シャンパンゴールド色の街灯が続く通りを歩いていたら、さらにわくわくして来た。

そして、ふと、その通りを知っている気がした。

なんでだろう?
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