だいすきボーイフレンド
セミの鳴き声が激しく響く木陰の歩道で、誰の耳にも届かないような声で、私はそうこぼしていた。

だけど隣を歩く晴人が驚いた表情を私に見せる。

「もったいな」
「なにが」
「せっかく東京来て頑張ってきてんやん、憧れてたんちゃうん」

表参道、とかな。
一度歩いてしまえば、こんなもんかーと思ってしまう。

そして私はこの速い流れの街で一人で生きていける気がしない。物価も高いし。

「もう満足したわ、東京は」
「えーなんなんそれ」

晴人の顔を見ると拗ねた子どものような顔をしてた。

「別にいいやん、晴人には合ってるけど私には合ってない、それだけやん」
「えー一緒に頑張ろうやあ」

隣でぶんぶん体を回す。
そんなん言われても。

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