ピエロの王様
第一章 王と成る者

・王子


薄暗い部屋に蝋燭の淡い光が揺れる。

それは机の上に広がる分厚い書籍の、

無数に羅列する小さな文字を照らした。

長く綺麗な指先がページを捲ると、

ペラリと軽い音を奏でる。

万年筆が紙を滑り、美しい文字が踊る。

窓辺の白いレースカーテンが、

冷たい床にぼんやりと月の影を映した。

『コンコンコンッ』

分厚い木製のドアが音を響かせる。

『六華様、夕食のお時間です。』

若い女の冷ややかな声が部屋に響いた。

羅列をなぞる指がピタリと動きを止め、

ほんの少しの静寂が部屋を包む。

『六華様。』

再び冷たい声がドアを突き抜けた。

六華と呼ばれた青年は深く息を吐く。

「…分かった、戻れ。」

地を這うような低い声で紡がれた言葉。

ドアの向こうで足音が遠ざかった。

人の気配が無いのを確認すると、

ぐぐっと体を伸ばして首を鳴らす。

「フー。」

六華は静かに椅子を引いて立ち上がる。

蝋燭の火にふぅっと息を吹き掛けて、

部屋を後にした。…あぁ、目が痛い。

鋭い光に目を細める彼の背中を、

召使いの大人達は遠巻きに見つめる。

六華は大股で長い廊下を歩き出した。
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